「ミケランジェロ、二つのピエタ ~その技巧と本質」 ちえろう

ピエタとは、イタリア語の「哀れみ、慈悲」の意味です。キリスト教美術においては、磔刑に処せられたイエスが十字架から降ろされ、その亡骸を聖母マリアや聖パウロ達が抱くシーンを切り取ったモチーフのひとつです。特に中世においては多くの作家たちがこのモチーフに取り組みました。その中で、ミケランジェロはこのピエタを4つ残しています。しかし、完成品は1つだけで、それ以外は未完の作品として残されています。ここでは、才気溢れる若きミケランジェロが手掛けた出世作、サンピエトロの《ピエタ》と亡くなる直前まで彫っていた未完の作、ロンダーニの《ピエタ》をご紹介します。

サン・ピエトロの《ピエタ》1498-1500年

サン・ピエトロの《ピエタ》1498-1500年

サン・ピエトロのピエタは、横たわるキリストと垂直に腰掛けるマリアを組み合わせた構図。造形的に困難な課題を抱える構図のため、ミケランジェロは2つの作例からヒントを得たようです。一つは、コズメ・トゥーラの《ピエタ》*1。これはキリストの遺体を湾曲させることでマリアの膝の中に無理なく収まる手法。もう一つは、エルコーレ・ディ・ロベルティの《ピエタ》*2(Jacques SavoyeによるPixabayからの画像)。こちらはマリアの衣装を大きくふくらませることによって横たわるキリストをしっかり受け止めることができます。これら2つの技法を応用することで、無理のない美しい構図が可能となり、鑑賞者はその感情表現と物語に集中できます。

ロンダーニの《ピエタ》1959年 作:ミケランジェロ

ロンダーニの《ピエタ》1959年 作:ミケランジェロ

一方のロンダニーニの《ピエタ》は死の直前まで制作にあたった未完の作品。キリストはほとんど立っている形で背後からマリアが抱きかかえています。いや、まるでキリストがマリアを背負っているかのような構図です。荒削りで、当時、かなり衰弱していたミケランジェロの荒々しい息遣いが聞こえてくるような作品。往年の彼の華麗な技は見えてきませんが、個人的にはこの作品に心掴まれます。まるで、チェリストのパブロ・カザルスが最晩年に国連で演奏した「鳥の歌」を聴いているようです。テクニックは衰え、音色も往年の輝きはないが、それらを超越した、一流の芸術家だからこそ伝えられる造形の奥にある「思い」。観る者の想像力を鍛えてくれます。

*1 :コズメ・トゥーラの《ピエタ》 参照サイト

http://art.xtone.jp/artist/archives/il-cosme-or-cosme-tura.html

*2 :エルコーレ・ディ・ロベルティの《ピエタ》参照サイト

http://art.xtone.jp/artist/archives/ercole-de-roberti.html